帽子の世界、帽子屋の知恵袋
春夏の天然草素材について

春夏の帽子素材|天然草素材について
春夏の帽子素材として定番となるのが、天然草木を原料とした帽子素材です。
一般的にはこれらをまとめて「ストローハット」と呼ぶことが多いですが、
実はこの呼び方はやや広義的な表現になります。
「ストローハット」という呼び名について
本来「ストロー(STRAW)」は麦わらを指す言葉であり、
厳密にいえば、現在流通している天然草の帽子でも多くは麦以外の植物繊維を原料としていますが
当店でも分かりやすさを優先して総称としての「ストローハット」「天然草帽子」と表記しています。
少し分かりにくい点ではありますが、あらかじめご了承ください。
天然草素材の種類と特徴
春夏の帽子に使われる天然草素材は、
秋冬のフェルト素材に比べると種類が非常に多いのが特徴です。
代表的な素材としては
パナマ・ラフィア・ストロー(麦)の3種が挙げられますが、
実際には当店で取り扱う天然草帽子だけでも10種類前後の素材が存在します。
以下にそれぞれの素材の特徴をご紹介します。
■ パナマ
天然草素材の中でも高級素材の代名詞ともいえるのがパナマ。
特にメンズハットでは、世界中のブランドで多く採用されています。
パナマ帽はトキヤ草(パナマ草)と呼ばれる椰子に似た細長い葉をもつ植物の葉を裂いて
乾燥・漂白した繊維を手作業で編み上げた帽子です。
パナマの産地エクアドルの中でも生産地や加工地で様々な種類があり
たとえばクエンカという産地のものは漂白が強く白っぽい
モンテクリスティ産のものは漂白法が違うため黄色みのある色あいでしなやか、など。
目の細かさ・混じりの少なさなどで細かくグレードに区分されています。
特にモンテクリスティ産は最高級とされ、
編みの細かさによってファイン・スーパーファインなどの等級に分かれます。
中には一般市場に出回らない門外不出とされるものもあるらしいです。
数万円クラスでも製作に2か月近くかかると言われていますので、100万円を超える最上級品が存在するのも頷けます。
パナマの色味と耐久性
パナマ帽はナチュラルカラーが多い印象がありますが、これは繊維に含まれる油分が多く、染料が入りにくいためです。
その反面、しなやかさと耐久性といった点に優れており、
天然草素材の中では最もおすすめしやすい素材といえます。
Borsalinoの試験ではパナマキートはUPF50+相当の紫外線防止効果もあるようです。
■ ラフィア
夏のレディースハットで欠かせない素材がラフィア。
ラフィアという名前は知らなくても、メンズでも人気の細編みのハットは誰でも一度は見たことがあるはず。
ラフィアは
椰子(ヤシ)の若い葉を細かく裂き、乾燥・漂白した繊維を編み上げた素材です。
しなやかな柔軟性と使い込むほどにツヤが増し馴染んでいくのも特徴的な素材。
このしなやかさを生かすため細編みにして折りたためる仕様にすることが多く
折りたたんでもシワになりにくく、割れにくい
天然草としては非常に使い勝手に優れた素材です。
*パナマでも同じように細編みにして折りたためるものはあります。
ただ、パナマと同じく油分が多いため染料が定着しにくく、
濡れた状態での色移り、紫外線などによる退色は他の天然草よりも大きいかもしれません。
原産地はフィリピンやマダガスカルなどが知られ、
特にマダガスカル産は良質とされ、多くのブランドで使用されています。
■ ストロー(麦わら)
いわゆる麦わら帽子に使われる素材がストロー。
小麦の茎を編んで紐状(ブレード)にし、渦巻き状に縫い上げて帽子の形に仕上げたもので
中が空洞のため軽く、比較的硬めでしっかりした帽子に仕上がります。
熱・紫外線の遮蔽率も高いので、実用的にも夏向きの素材です。
ストロー素材はひも状のブレードを縫い上げるブレードハットに作られることが多く
繊維が太く硬いためパナマなどのように繊維を交互に編み上げていく石目編みの帽子は少ないです。
外国由来のものが多い天然草の素材の中でも、日本でも作られてきた素材で
こちら香川県でも昔は麦わら帽が盛んに作られていました。
麦稈真田とよばれ、帽子を作る用途に育てて早期に刈り取るため
染みがなく細くしなやかな繊維から作られた均一できめ細かいブレードは
四菱編みのカンカン帽など今ではヴィンテージハットにのみ見ることのできる素材になってしまいました。
香川原産の麦を使った麦わら帽復刻プロジェクトが進行しているようですので個人的に期待しています。
■ シゾール(マニラ麻・シナマイ)
近年、入手が難しくなってきた希少素材がシゾール。
フィリピン原産のマニラ麻(アバカ)から作られます。
「麻」と名がつきますが、分類上はバナナの仲間(バショウ科)です。
植物繊維としてはもっとも強度の高いものの1つで、
耐水性・耐久性がとても優れているため
古くからロープや漁業の網などに使われ
服飾素材としては帽子・バッグ以外ではほとんど見かけないものです。
意外なところではお札にも使われています。
艶やかな光沢をもつ植物繊維で、出来上がった帽子をみるととても薄く羽根のような軽さで
光沢感ともあわせてとてもエレガントな帽子に仕上がります。
前述のパナマに比べると繊維が硬めで、癖がつきやすいという難点はあるのですが
純白に漂白することが出来ることと染料の染まりがいいため
発色の良い様々な色合いに染めることが出来るのは衣料としては優れたポイント。
似た名前でパラシゾールという物もありますが、
これはシゾールが石目編み、パラシゾールがアジロ編みの編み方による違いとなります。
素材感の似た素材でラミエ(ラミー・苧麻・ケンマ草)などの素材もあります。
■ ブンタール
フィリピン原産のココヤシの髄を割かずに丸ごと使った繊維で
非常に軽く、艶やかな光沢のある高級素材です。
繊維を割かずに使うことと凹凸も少ないため、
非常に滑らかで均一な編み地に仕上がるのは特徴で
艶感を生かすためアジロ編みに仕上げられることが多いです。
美しい素材感と軽さから夏用帽子の最高級素材の1つとも知られていますが、
現在では編み手がいなくなってしまい、
既存に編まれた帽体がなくなれば作れないという絶滅危惧種のような存在です。
こちらも編み方によって名前が異なり、
石目編みはバクー、アジロ編みはパラブンタールと呼ばれます。
■ パンダン
東南アジア原産の熱帯植物ニオイタコノキの葉で、甘いバニラのような香りを持つので
料理やケーキなどの香り付けなどにも使われる素材です。
ストローのような硬めで艶のあるパキッとした質感を持った繊維にしあがります。
丈夫で耐久性も高いため、普段使いにもオススメしやすい素材となります。
■ バオ
ココヤシの葉を原料とした繊維で、ラフィアと同じく椰子から作られる素材ですが
バオは比較的硬めで丈夫、軽いのが特徴的な繊維。
しっかりしたシェイプを保てるため、クラシックな帽子に使われることが多いです。
あまり流通量は多くないので、希少な素材としても知られます。
■ 南徳草
陸稲の茎をつかった繊維で、硬めで耐久性のある強靭さがあり
ややラフなビンテージっぽい質感のものが多いように思います。
南特草ともよばれます。
■ カンピ草
吸湿・発散性に優れた天然のい草の一種で、主に軽量で涼しい夏用の帽子
(カンカン帽など)の素材として使用される繊維です。
撚って使われることも多く、ヨリカンピとも呼ばれます。
■ シーグラス
い草に似た海辺の水草を使ったサラッとした硬めな素材感の繊維で
耐久性・通気性に優れた繊維としても知られます。
晒しにもよるのかもしれませんが、
どちらかといえばくすんだグレーっぽい色味のものが多いような印象です。
■ その他の素材
他にも
バンブー・ジュート・コーン・エチェンゴンドッグ(ホテイアオイ)など様々な種類があり
それぞれ違った質感・雰囲気があって面白いです。
天然草帽子を選ぶときのポイント
- 使用シーン: フォーマルならパナマ、カジュアルならストローやジュート
- 携帯性: 折りたたみたいならラフィアやパナマの細編み
- 耐久性: 長く使いたいならパナマ、ラフィア、シゾール
- 予算: お手頃ならジュートやストロー、高級ならパナマやブンタール
- デザイン: 色にこだわるならシゾール(発色良好)、ナチュラルならパナマやラフィア
*パナマ・ラフィアは耐久性は高いのですが、色焼け・退色しやすいため
色の耐久性は低いです。後日別記事にします。
天然草の帽体は、年々原料・職人ともに減少しており入手が難しくなっています。
それぞれの素材が持つ質感・風合い・歴史を楽しめるのも天然草帽子ならではの魅力です。
だからこそ、今ある素材や技術を大切にしていきたいもの。
自分に合った素材を見つけて、長く愛用できる一品を選んでくださいね。
| 素材名 | 質感 | 重さ | 耐久性 | 価格帯 | おすすめシーン |
|---|---|---|---|---|---|
| パナマ | しなやか | 軽〜中 | ◎ | 高 | フォーマル・長期使用 |
| ラフィア | 柔軟 | 中 | ○ | 中〜高 | お出かけ・旅行 |
| ストロー (麦わら) |
硬め | 中 | ○ | 低〜中 | カジュアル・実用 |
| シゾール (マニラ麻) |
硬め・光沢 | 軽 | ◎ | 高 | エレガント |
| ブンタール | 滑らか・光沢 | 極軽 | ○ | 最高級 | 特別な場面 |
| パンダン | 硬め・艶 | 軽 | ◎ | 中 | 普段使い |
| バオ | 硬め | 軽 | ○ | 中〜高 | クラシック |
| カンピ草 | 硬め | 軽 | ○ | 中 | 涼しさ重視 |
| シーグラス | 硬め | 軽 | ◎ | 中 | カジュアル |
| バンブー (竹) |
硬い | 軽~中 | ◎ | 中 | 和風テイスト |
| ジュート (黄麻) |
粗め | 中 | ○ | 低 | コスパ重視 |
| 南徳草 | 硬め・ラフ | 軽 | ◎ | 中 | ビンテージ風 |
番外編 ■ペーパーストロー
厳密には天然草ではありませんが、帽子としてはずいぶん前から天然草の代替としてペーパーストローは使われてきました。
*海外製の帽子でTOYO STRAWという名称でよく使われています。
STETSONのペーパーストローのウエスタンハットも古くから和紙素材を使っているようです。
一般的に紙素材は、トイレットペーパーやティッシュペーパーなど日本の紙質が良いこともあって、
水に弱い、破れやすいような印象が強いと思いますが、
特に和紙は植物繊維を抽出して作られた不織布のような繊維の固まりに近いもので
耐久性も高く、加工次第で水をはじくようにも、手洗いも可能な強度がある素材も変わります。
昨今ではパナマなど天然草素材の減少や価格高騰や加工技術の進歩などから
従来にくらべ質感・取り扱いも各段に良くなったペーパー素材もたくさんあり
天然草に比べて、
・安定的な供給が可能
・繊維の太さ・色にムラができにくい
・染色性が良く劣化しにくい
・割れにくく折り畳みにも対応可能
といった特徴があります。
- 2026.02.11
- 01:44
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